第12回全国イタリア料理コンクールで優勝するまで④~優勝リゾットができるまで~

研修を終えて

研修から帰って、まずコック帽をかぶることにしたらしい。今更ですか。本人曰く案外便利だそうだ。何より、短髪を保たなくてよい。
しかし、厨房はそのように想定して設計されていないため、あちこちにぶつけている。

そして、リゾットを作ることが増えたし得意になった。さすがにアマランテシェフのサフランのリゾットが何故あのようになるのか、今のところ奇才イタリア人シェフだからだ、としか言いようがないので解明に時間を要するが、シェフ山嵜のリゾットもなかなか自慢できるレベルになった。
一度食べたお客様からその後来店の都度、必ずリゾットを所望されたり、海外からのお客様も含めて非常に評判が良い。
賄いでは奈良県産の5分精米を使ったリゾットをいただくことがあるが、完璧なアルデンテだ。日本米でもアルデンテを容易に保てるようになった。

最後の最後にお待たせしました、遡って優勝リゾットについてご紹介します。

第12回全国イタリア料理コンクール2021 エントリー受付中!今年のテーマは「カルナローリ米」を使ったイタリア料理!リゾットやアランチーニなど、得意なお米料理で挑戦してください! ”

事の始まりは昨年の2021年9月に突如届いた1枚のFAX。コンクール応募締め切りまで2週間だった。応募を決めたのは、審査員全員がイタリア人のシェフであるということ、これを機にリゾットにいよいよ向き合ってみよう、という2点だった。

その後、予期せぬ優勝とJapan Olive Oil Prize賞までいただき、副賞としてアルマーニ/リストランテ銀座にて1週間の料理研修の機会を得たことは、前回までのブログの通り。

予選出品作品は『Risotto al Lardo di Colonnata』

シェフが初めてリーゾ・パルマを食べたときの感動を、新たな表現で再現したいと思い考案した。米を主役にすべく少量でも味に深みが出る食材、ラルド・ディ・コロンナータ* を細かく刻んで仕上げのマンテカーレに使用した。バターは使わず、通常のリゾットでは考えられないごく少量使うチーズはピエモンテ州産ラスケーラ・ダルペッジョ。胡椒、大和橘のピール、香草オイルで仕上げた。北イタリアのリゾットではなく、米を野菜として捉え南イタリアの調理法を取り入れることで米の旨みをぐっと引き出した。

*ラルド・ディ・コロンナータ;トスカーナ州の集落コロンナータで生産されるラルド(豚の背脂の生ハム)で、この地域の特産である大理石で作った箱に入れて熟成されたもの

そして予選通過の知らせと共に、テーマの変更が伝えられた。
カルナローリ米をたっぷり使えるよう、通年食べられるようなレシピにしたのだが。

”秋を感じさせる”イタリア料理を!”

ラルドのリゾットはどうしても発表したかったので、加えられる秋の食材といえば栗だ。とはいえ、決勝戦当日は11月末で生の栗の入手が可能か微妙。
ひとまず指定のGallo社のカルナローリ米を手配した。予選のレシピは他社のカルナローリ米で作っていた。
”栗” と ”Gallo社” のカルナローリ米にこの後とんでもなく悩まされるとは、このとき予想もしなかった。それまでのリゾットを食べた経験と作った経験が圧倒的に少なかったからに他ならない。

Gallo社のカルナローリ米が届いてみると粒の大きさが全く違う。大粒で見るからに美味しそうで期待は高まるばかり。そして、予選通過のレシピでまずベースのリゾットを作り・・・・・

青ざめた。完全にレシピ崩壊!!再現すらままならない上、栗はどうする?調べるとやはり和栗のシーズンがほぼ終了している。

栗はイタリアの栗、シーズンぎりぎりの生の和栗、勝栗(干した栗の実から殻と渋皮を除去したもの)、焼き栗、あらゆる栗を取り寄せ片っ端から試した。
結果、イタリアの栗と生の和栗が必須とわかった。11月末ぎりぎり手配できる生の和栗が茨城県にあった。
大変美味しいのでここでご紹介させていただきます。
岩間の栗や 小田喜商店
この栗を知ることができただけでも大きな収穫だ。

さて、食材は揃ったものの肝心のレシピが崩壊したまま、最初の味がどうしても出せない。とにかく作っては食べ、作っては食べ、少しずつ調味料の分量や調理方法を変えながら微調整が続いた。ブレないレシピが完成したのは、なんと決勝戦2日前、奈良を発つ前日11月23日の朝!!

22日、ソムリエ・エクセレンス山嵜の採点は65点だった。数日前から賄いの時間だけでは足らず、朝一や夜の営業後も時間があればリゾットを作っては食べ、作っては食べ、翌朝には余ったリゾットをオムライスにし、また作る、食べる、作る、食べる。
なんせ、ソムリエ山嵜は「これじゃない」「ラルドの感じがもうちょっと、こう、なんていうか・・・」「香りはこうで、食感はこうで」と言うだけなのだ。ただ、かなり微妙な違いがわかる上、店とシェフ山嵜のためになるなら妥協しない。

22日の試食はその後75点から上がらず、もうこれ以上米は無理無理無理無理!!と限界を迎えた夜、おもむろに山嵜が沢山の蔵書から1冊の本を手に取った。
ある一節を読んだ直後に作ったリゾットを食べて、私たちは歓喜の声を挙げた!!
翌日そのレシピを数回繰り返し、ブレなかった。その次の日、決勝戦のため東京へ。そして優勝へと至った。

シェフ山嵜がこの料理を思いついた原点に戻るため開き、目が覚めた1冊は『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』(池田匡克著 河出書房新社)の160頁 ”Nord che vuole diventare Sud 南になりたい北” の一節だ。

ことばに助けられた。ことばの力の凄さを痛感した。
シェフ山嵜が料理を学ぶとき最も大切にする ”その料理人の思想を学ぶ” が活きた。

決勝戦のリゾットは『栗とラルドのリゾット 大和橘の香り』

野菜の旨みをシンプル且つ的確に引き出すナポリの調理法を米に応用した。にんにく、パセリの茎、チーズの皮、唐辛子で風味付けし香りや旨みをまとわせた米と栗を水で煮ることで、米本来の甘みや旨みを最大限に引き出した。仕上げに加えるラルド・ディ・コロンナータと栗のペーストが、マンテカーレによって優しいソースとなり米を引き立てる。削った大和橘と香草オイルが爽やかさや複雑味を演出し、かすかな唐辛子の辛味が全体の味を引き締める一皿。

今回の優勝によりソムリエ山嵜のテイスティング力にも自信がついたし、イタリア修行経験のないシェフ山嵜のイタリア料理の解釈が間違っていないという裏付けにもなった。
これからも活字と世界中のシェフ達の料理動画の行間から思想を読み取りながら、イタリア料理と文化を誠実に追及していく所存です。