はじめまして、Pipi de chat

Langue de chatラング・ド・シャはご存知、薄焼きクッキー。フランス語で「猫の舌」

Pipi de chatピピ・ド・シャは、ソーヴィニヨン・ブラン(以下SB)で造られた白ワインの香りの表現のひとつ。フランス語で「猫のおしっこ」

・・・・・今から飲もうとするワインに全くふさわしくない表現である。もちろん、「こちらは、猫のおしっこの香りのする・・・」などとお客様に使う言葉ではない。ブラックユーモア好きのフランス人が言い出したとか。私はそれが、突出した青草の香りで、ライムのような柑橘の香りと混ざったとき、少し鼻につんとくる、若干不快なにおいに対して使われる言葉である、と認識していたが、本物のピピ・ド・シャを知らなかったので、その表現は使ったことがなかった。

そしてついに先日、本物のピピ・ド・シャに出くわした。しかし、初めは何のにおいか気付かなかった。SBの香りとはほど遠かったのである。

 

帰宅後、干してある洗濯物を入れるべく裏庭に出て、クロックスを履いたら、右足がびしょ濡れになった。雪の夜だったので、雪が水溜りになるほど降ったのかしら?とあまり気にせず濡れた靴下もそのままに、クロックスの溜り水を捨て、タオルで拭いて驚いた。私の足・・・・・こんなに臭いのか!!!マジですか・・・凍るほどの寒さで、これほどにおうとは、どれだけ臭いの・・・。濡れることにより、私の靴下本来のにおいが発生したのだと思った。例えると、「小学生時代の掃除時間、何を拭いたか知らない雑巾を、すっかり乾いているし、そんなに汚れていないので、まぁいいか、と水につけ絞ってびっくり!臭っ!!!・・・という雑巾を100枚集めてにおいを抽出、更に凝縮してスプレー缶に詰め、いくわよ、シューーーッ」としたようなにおいである。・・・悶絶・・・。

気を失う思いで、脱いだ靴下を洗濯物の下の方にうずめて、そそくさとお風呂に入り、対処法を必死で考えまくった。一体いつからこんなに臭いのか・・・???

そして、ふと気付いた。裏庭の雪の量から考えると、クロックスに溜まった水の量は多すぎる。しかも屋根の下で地面は濡れていないのに、片方にだけたっぷりの水溜り・・・外では猫の声・・・あーーーー!!!もしやこれが噂の“pipi de chat ピピ・ド・シャ“なのでは?

どこがSBなの!(怒)

しかし、ちょっと嬉しい。私の足のにおいではなかったのだ。

遅ればせながら、はじめまして♪

この際、しっかり香りを分析する必要がある。さっさとお風呂から出て、恐る恐る先ほど靴下を埋めた洗濯物に近づくと、おぉぉぉ!!かすかなグレープフルーツのような、ライムのような爽やかな香り!!これは、確かに“良い”SBの香り。しかし、あまり近づくと不快なにおいになる予感がする程度の“良い”香りである。

このピピ・ド・シャと例えられるSBの香りの成分は、チオールの一種、3-メチルカプトヘキサナールである。アルコールと硫黄分子が結合した成分で、汗や蒸れたような悪臭を形成するため、イメージが悪い。本来無臭であるガスに添加されているにおいが、チオール系の中で有名である。しかし、一方で、グレープフルーツ、マンゴー、グァバ、パッションフルーツなどトロピカルフルーツの香りも特殊なチオールに由来していることが判明した。この、チオール系にしては良い香りの成分も、多量になるとやはり悪臭と感じる。

洗濯物に埋もれた靴下からは、ほんのりいい香り。しかし、濡れた靴下で歩いてしまった廊下には、雑巾スプレーの香りが充満していた。クロックスも漂白剤に浸した。

フランス人が言ったとされるピピ・ド・シャは、猫のマーキングとしての尿スプレーだったのかもしれない。または、猫が大好きで、猫と大好きなSBのワインに愛を込めて言ったのかもしれない。だが今回、量と場所から考えて、私は猫のトイレに足を突っ込んだと思われる。この際、マーキングのピピ・ド・シャの香りも体験したいが、自由な猫たちゆえ、難しそうである。

ピピ・ド・シャの香りは、未熟なSBからワインが造られた場合に感じられる香りであり、栽培技術の向上により現在は減少傾向にある。そして今、世界で最も好んで飲まれている白ワインの品種はSBである。フランスだけでなくイタリアでも、そして、南半球の多くの国で生産されており、完熟したブドウから造られるトロピカルフルーツの香りと果実味は、多くの人々を魅了している。

これまでも、そして、これからも、Pipi de chatをSBの香りの表現として使うことはなさそうである。

でも忘れないよ、Pipi de chat。