◆宇陀牧場井上牛のタリアータ 奈良のフレーバーを添えて◆

タリアータは日本のみならず世界で最も有名なトスカーナ料理の一つです。
ミラノで料理修行をしたトスカーナ州ピサ出身のシェフ セルジオ・ロレンツィ (Sergio Lorenzi) 氏が、1973年に古くから存在する牛肉料理ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを再解釈して自身の経営するピサのレストランで提供したのが始まりです。同店は1978年ミシュランの星を獲得、1980年代に入りレシピが広まってピサ地域のほぼすべてのレストランで提供するようになりました。

ピサから日本へ世界へ広まったタリアータを、奈良特有のフレーバーと滋味深さで表現しました。

宇陀牧場井上牛タリアータ 奈良のフレーバーを添えて

宇陀牧場井上牛タリアータ 奈良のフレーバーを添えて

主役である宇陀牧場井上牛は、塊のまま低温でゆっくり火を通し仕上げに炭火で表面を焼いて切り分けました。生産者の「本当においしいお肉」への探究心の積み重ねにより生まれた牛肉の新鮮さと上質な肉質を味わうために、基本的で最適な料理法です。

奈良特有のフレーバーとして添えるのは、奈良漬けの抜き粕に漬けた「パルミジャーノ・レッジャーノの奈良漬け」、細かく削った「烏梅(うばい)」、大和まなで蘇らせた奈良時代の漬物「須須保利(すすほり)漬け」そして新鮮な肉の赤身と発酵熟成をつなぐのは奈良のハーブ「大和トウキ」

発酵と熟成を経たフレーバーを添えることで肉の表面のメイラード反応による旨みと自然につながりながら、一方で風味の個性が表面にあらわれることから、トスカーナを代表する赤ワインであるサンジョベーゼを想起させるタリアータが実現しました。

最もインパクトを与える最初のフレーバーは、パルミジャーノ・レッジャーノの奈良漬けです。今西本店の長期熟成した抜き粕のフレーバーは熟成した赤ワインの香りを想起させ味わいに奥行きを与えます。

烏梅のしっかりと燻された燻製香は肉の表面の炭火の香りを増幅し、真っ黒な外観を裏切るような梅の鮮烈で爽やかな酸味は若々しいキャンティを思わせ食欲をそそります。

付け合わせの野菜は、口中をリフレッシュさせつつ料理とトーンを合わせるためピクルスが必要だと感じました。そこで奈良時代の古代食でありぬか漬けの元祖ともいわれる「須須保利漬け」を、大和伝統野菜の一つ「大和まな」で再現しました。栗粉、ひえ、大豆粉、米粉で野菜を漬け込みます。栗粉や大豆粉の香ばしさが残る乳酸発酵は、繊細な大和まなと絶妙な相性を見せ異国情緒漂う味わいに仕上がりました。その複雑な香りは、熟成したサンジョベーゼの要素でもある森の湿った土や下草を思わせます。

五條市益田農園の大和トウキのオイルは、サンジョベーゼが持つハーブのようなフレッシュで野性的な香りと旨みで、肉の新鮮さと発酵や熟成のフレーバーを爽やかにつなぎます。

タリアータを主役とし、奈良特有のフレーバーを添えることでサンジョベーゼの特徴が揃いました。その味わいは滋味深さと共に未だかつてないフレーバーの組み合わせが新しささえ感じさせる一皿です。

料理誕生の経緯は note をご覧ください。