2023年度 ITALIAN WEEK 100『パスタ未来形』についてご紹介いたします。
<山嵜正樹の考え>
料理を考案する際、私が最も大切にしていることは「また食べたいかどうか」
リストランテなのでケではなくハレではあるが、華美で稀少でごく一部の人が味わえるような料理がハレだと思う方もいらっしゃるでしょう。
私が提唱するのは、プロフェッショナルな料理人として知識と技術と時間をかけた家庭では味わえないお料理を家族と仲間と、近所で旅先で味わいリラックスして楽しむ、皆さまの日常のすぐ近くに寄り添う、何度でもどなたでも訪れることができるリストランテです。
その上で今回のIW100のテーマ『パスタ未来形』を考えたとき、未来へ残したいものとして真っ先に浮かんだ “水”
地球上のあらゆる生命体の未来に欠かせない清らかな水をテーマにしました。
中でも人間が ”そのまま飲める水” は限られており、飲める水にするため植物や野菜の力を借りています。そのままでは飲めない水を、野菜に吸収してもらい、動物に植物を食べることで体に蓄えてもらい、調理してそれらの水をいただいています。
人は自然と共にあります。水は未来からの借り物です。水は地球の歴史を地層として記録していきます。
今夏、地質学の専門家たちにより、46億年の地球の歴史の上で人類の痕跡が残る時代を区分する、新たな地質年代「人新世」(じんしんせい、または、ひとしんせい)を設けることが国際学会に提案されました。
「人新世」は、現在の「完新世」に続く新しい地質年代の区分として2009年から検討されており、始まりは1950年ごろを採用するとされています。
この時期、世界の人口やプラスチック、コンクリートなどの人工物の生産量が爆発的に増えており、50年代に急増した核実験によるプルトニウムも世界中の地層や氷床に既に ”記録” されています。
”人類の痕跡が残る時代” が地球歴史上前代未聞の ”欲望と傲慢に満ちた恥ずかしい地層” として積もりつつあります。ちなみに1950年代までは人類の理性がぎりぎり働いていた時代で、その後タガが外れ現代に至るということです。
私はこのことを知り驚愕しました。
私たち一人一人にできることは僅かであっても、今どう過ごすか、例えば水をどう考えるかで未来が変わるといえるでしょう。誰も未来の水を汚したくはないと思います。
植物の力を借りて濾過された大地の水の恵みをいただくパスタが、“アクア・ディ・ポモドーロ” です。未来へ残したい美しい水への想いを表しました。
繰り返しになりますが、水はあらゆる生命の命を育みます。人は飲料としての水の他に、農作物へと形を変えることでも水を摂取しています。
中でもイタリアで長い年月をかけて食用として開発されたトマトは日本にも定着し、イタリア料理と共に広まりました。トマトから抽出したクリアな水に未来への想いを託しました。
トマトの水に華を添え未来へと誘うもう一つの植物 “大和橘”
古事記に“非時香果”(ときじくのかぐのこのみ)として記されている大和橘は、万葉集の多くの歌にも詠まれている日本固有の柑橘です。現代の奈良人により今、絶滅の危機を乗り越えようとしています。
可憐な大和橘の芳しい香りが、大地の未来を見据えた農業を行う奈良市前田農園のトマトと共に未来につながる豊かな自然の大切さを想起させてくれます。
『人は自然と共にある』
奈良に暮らし、日々イタリアの伝統と文化に思いを馳せる中で感じる、自然への敬意と感謝から素直に導き出した“アクア・ディ・ポモドーロ”
料理という最も平和的な形で、多くの皆様に奈良の自然の懐の深さをお届けできることを嬉しく思います。