あるようでなかった、香るビターなティラミス

コースの最後をしめくくる大切なドルチェ。中でもティラミスの魅力は格別です。重すぎず軽すぎず常に改良を重ねてきて、まだあった!ユニークなティラミスが完成しました。

ティラミス2025

ティラミス2025

 

キャラメルとアマゾンカカオのチュイルでよりビターに、アマレッティと大和橘が華やかな風味を添えます。ティラミスの真骨頂、濃厚な味わいと食感を保ちながら、苦みがすっきりと感じさせる、新たな「重すぎず軽すぎず」を実現しました。

いまや世界に愛されてやまないティラミス。発祥地や年代、語源をめぐっては論争がありイタリアにお任せするとして、日本にいつどうやって上陸したのでしょう。

1990年前後日本でちょっとしたティラミスブームがありました。イタ飯ブームの中、はっきりしたアイデンティティのある、それまでなかったデザートだったから、と思い込んでいましたが、実は日本の油脂メーカーが火付け役だったのです。

1980年代日本はイタ飯ブーム真っ只中、日本の油脂メーカーが当時イタリアで話題になっていたティラミスに目をつけました。高級食材だったマスカルポーネの代替食品として大豆油脂から作った純植物性クリームを開発し「マスカルポーネ」として業務用に販売を始めました。

安価であることと簡単なレシピにより、レストランのみならず洋菓子店やコンビニエンスストアへ瞬く間に広がります。例にもれず、急激なブーム到来は早くも1990年代初めに終わりを迎えます。

それにしてもマスカルポーネの代わりに大豆の代替品を使っていたとは驚きです。材料は異なりますが、現在でいうヴィーガンバターの先駆けといえるでしょう。

マスカルポーネのみならず、当時、エスプレッソもサヴォイアルディも入手が困難だったはずです。そんな中、日本にある材料でなんとかティラミスを再現しようとした食品メーカー、シェフ、パティシェの皆さまのおいしいを分かち合いたいという熱意と工夫があったからこそ、今私たちは多様性に満ちたティラミスを楽しむことができています。

昨今、リストランテにおいてもパティシェチームによる驚くような美しい形、香り、食感のティラミスがコースの最後を飾ることもしばしば。やっぱりただのブームに終わらなかった、イタリアを象徴するドルチェの代表格ティラミスの人気は不動です。

さて、料理人が作るティラミスもまた乙なもの。マンマとパティシェのいいとこ取りが自在です。

シンプルなレシピだからこそ、もっとおいしくなるのではと可能性を感じ様々な改良を重ねてきました。素材のセレクトはもちろん、時代背景から想像しエスプレッソをモカ・エキスプレスで淹れました。するとコーヒー豆を食後のコーヒーとは別に選ぶことになり、マスカルポーネ、サヴォイアルディも自家製になりました。だからこそ辿り着いた、香り高いビターなティラミス。アーモンドプードルで作ったサヴォイアルディがよりリッチに、クリームや他の素材を引き立ててくれます。

コースのデザートとはいえ、ティラミスはティラミスであって欲しい。濃厚さを失わず食後感は軽やかに。コースの余韻とともに幸せな気分をお持ち帰りいただけますよう、最後にこころを込めてティラミスを贈ります。