ITALIAN WEEK 100 ”パスタの未来形” 『アクア・ディ・ポモドーロ』を主役とした特別コースでは、奈良の未来の水をテーマにするとともに、奈良とイタリアの食文化の融合を試みた。
レストランで各地地元の食材を使うということはもはや当たり前の昨今、日本風にアレンジするということでもなく、奈良で過ごす料理人 山嵜正樹を介して生まれたイタリア料理に表した感動を、奈良を食べる体験により皆さまと共有できればと願う。
100店のイタリア料理店が100人のシェフを介して、日本全国の11月の食材を一斉にお皿にのせる、つくづく画期的なイベントだと感動している。
この度は、参加させていただき心より感謝申し上げます。
肝となった前田農園さんのトマトから生まれた、ボルゴ・コニシの『パスタの未来形』アクア・ディ・ポモドーロ。前田さんのトマトとの出会いからイベント開催までの間、コース料理としての前後を支える11月の奈良の大地の水の恵みを象徴する、素晴らしい食材に恵まれた。
その中から9月に訪れた吉野下市町 辰誠園と五條市 益田農園をご紹介する。
奈良市から車で1時間半、まずは念願だった五條市役所横の”柿の専門 いしい”さんが運営するにぎわい棟にて柿尽くしランチ♪
いしいさんの柿酢は、今やボルゴ・コニシの料理に無くてはならない存在。リコッタを作る時などにも使う。
今回のIW00特別コースでは最後を飾る、辰誠園さんの柿のドルチェにジュレにして添える。
柿尽くしランチで大満足の後、辰誠園さんへGO!五條市役所を出てあっという間に山道に入った。山は深く美しい。
しばらく行くと車がひっくり返るのではないかと思うような急勾配を上って直後、相当鋭角なカーブを下ると突然立派な門柱、辰誠園さんに到着した。ちなみにレンタカーだが、毎回カーナビの進化ぶりに驚かされる。
居間でお話を伺った。サラリーマンだった辰巳さんは、家業を継ぐことを決心した。現在、柿、梨、さくらんぼを生産されている。
その昔、奈良県でさくらんぼの生産者を増やそうという取り組みがあった初期から、唯一成功し生産を続けている生産者だ。いずれの果物も樹上完熟で生産量が限られることから直売のみ。長年のお客様へ毎年お届けするだけで精一杯。
辰誠園さんの果物を一口食べれば納得である。
伺う前に梨を送っていただいた。梨の個性である見た目と食感に表れたひと粒ひと粒の果肉が微細で、各粒の表皮(というかは、わかりません)が薄く均一に隅々まで綺麗に並んでいてそれぞれが美しい果汁をたっぷり蓄えている。間違いなく香りも味も梨だが、梨とは思えないシルキーな口当たり。エレガントな味わいと相まって気品さえ感じる。
最も好きな果物は梨である、と梨を見かけるたびに言い切るシェフ山嵜は絶句していた。
家業を継ぐなど頭になかったため、ほぼ一からの出発。まずは、ご近所付き合いから。そこには独特な古いしきたりに窮屈さを感じるかもしれないが、山深い過酷な自然の中で人々が共に生きるために積み重ねた、人間の英知を感じた。山で学んだことは街の生活にも活かせるが、街の生活しか知らなければ山では暮らせない、人々のつながりも同じなのかもしれない。
今年は暑く栽培にとても苦労したこと、そして年々難しくなっていること、それでも長年のお客様が待ってくださっているから頑張れる。お話を伺いながらいただいている梨とリンゴ(これまた凄い!!)に時々「う、旨っ!!!!」と思わず叫びそうになるのを抑えつつ、なんとか作り続けて欲しい!!!と願わずにはいられなかった。
今までなかった現象も。
アジアから日本の友人を介してやって来て突然門を叩く外国人御一行様。いくらでも払うからと言われても、無いものは無い。なんとか少しお出ししたら瞬く間に完食し、美味しかった!!!と大喜びで去った、なんてことも。SNSで見て美味しそうだったから、だそうだ。お目が高い!
さぁ、いよいよ畑へと思いきや「お見せするような畑はないのですよ」と照れたようにおっしゃって指さされたその先には、梨の木も柿の木も、元からそこにあったかのような形で山の斜面に生えていた。
山野草(雑草という言葉に抵抗を感じ困っていたところ、お客様に教えていただいた素晴らしい呼び名!)はそのままに畑内を歩き、観察し、感じ、見守り、樹上で完熟するまでサポートする。
ご本人もおっしゃる通り、今まで見た柿園とは全く違う景色だが、放っているように見えて放置どころか一日中畑の中で仕事をしていることがわかるような、木の周りの山野草さえ絵になる畑だった。
そのことは辰巳さんの作った果物が証明している。
ご子息は農学を修められ、また昆虫を専門とされており、現在奈良県の農産に携わるお仕事をされている。息子さんのアドバイスなども参考にしつつ、山野草と昆虫の正しい生態系による農法を取り入れている。
「今年の柿は難しいかも・・・暑すぎて現在(9月中旬)心配なくらい先行き不透明なんです」と11月の出荷どころか2023年の出荷ができるかどうか、ということだったが、11月中旬目一杯果汁を蓄えた富有柿が届いた!!
食べてみてまたもや絶句。樹上完熟のためお早目に、とのことだが日ごとにポテンシャルの高さを感じる。ゆっくりと確実に追熟していく。まだ熟す余地があったのかと驚いた。
入荷から2週間たった現在、ドルチェの柿のアマレッティに最も理想的な状態だ。
高品質なチーズやワインと同じように感じた。
生産者からバトンを渡された後、適切に環境を整えて見守るだけで最後まで迷わず熟成していく。
出荷までに強くたくましく育ち、自立できる安定した品質まで成長しているからだろうと思っている。
そこから伝わる生命力にただただ感謝するばかりだ。
辰誠園さんを知ったきっかけは息子さんとの出会いだったが、果樹園のご子息と知らず味覚の良さから「お好きな柿農園はありますか?」と伺った際、「うちの柿です。特に生産者の個性が現れる富有柿は日本一だと思います」と即答断言されたことを頼もしく思い出した。
今回、ITALIAN WEEK 100のコースで県内外のお客様に広くご紹介できたことを大変光栄に思う。見た目の美しさと気品溢れる柿の味わいに、大変ご好評をいただいた。
辰巳さん、本当にありがとうございました。
お次は車で十数分の五條市 益田農園さんへ。
途中、所要時間と場所がわからず訪問を断念していた、へいばらのレモングラス畑を偶然発見し大興奮!!どなたもいらっしゃらなかったので残念だった。
美味しいハーブティをいつもありがとうございます!!(畑に向かって愛を叫ぶ)
店頭で強烈に美味しい益田印ブロッコリーに出会ってから、キャベツ、玉ねぎ、トウモロコシ、大和トウキ、柿、と全益田印を制覇している追っかけファンとしては、この日を待ちに待っていた!!
出迎えてくださったのは益田農園のホームページと全く同じ、満面の笑みをたたえた益田さん。ただにこにこと普通にお話をされているのだが、なぜか周りの山から笑い声がこだまとなって聞こえてくるような気がして仕方がない。つい私も笑ってしまう。
奈良市に帰ってその後も、落花生、もものすけ(カブ)、あんぽ柿、と追っかけを続けているが、お会いしてからは益田印に触れるたび五條の山のてっぺんに大きく浮かぶ益田さんの笑顔が脳裏によみがえる。そんな景色は決して見ていないのだが。
益田さんのブロッコリーによってボスコ・ディ・ブロッコリーが遂に本当の意味で完成したこと、そのブロッコリーがいかに素晴らしいか、そして益田さんにどうしてもお会いしたいと思って来たことを伝えると、とても言いにくそうに「そんなに思って来てくれて申し訳ないんだけど・・・ブロッコリー植えたのは、全てキャベツのためで・・・ほんと遠くまで来てもらってすみません」(ニコニコ)
益田さんの発見はこうだ。
キャベツは重い、確かに益田さんのキャベツはとても重い、収穫の際は畝の間にトラックを入れたい、そうすればトラックの荷台にキャベツを載せながら収穫できる、しかしトラックのために1畝無駄にするのがもったいない、キャベツより収穫が早くできる野菜は?キャベツの一種で丁度いい野菜があった、それがブロッコリー!
「すみません。どうしてあんな美味しいブロッコリーができるんですか?と言われてもわからないです。普通のことしかやってないしな~、なんやろ?次からちゃんと考えてやってみます、ワッハッハ」(私達もワッハッハ)
私たちは訪ねる以前から、それが益田さんの凄いところだと思って伺ったので逆に恐縮した。益田さんが作るいずれの野菜からも、益田さんと大地と植物が対話し協力してできたのだと感じる。3者いずれも無理をしていない。味わいに濁りが一切ない。
益田さんは特別なことは何もしていない、と思っていらっしゃるが前述のように、作物と大地とずっと対話をして収穫まで共同制作をされているのだ。
土地ごと、作物ごとの細やかな独自の対処方が、各生産者ごとにあると感じるが、対処と工夫が無限に広がるため最低限のルール以外は決まった方法などない。言語化が困難になるのは当然だ。料理のレシピはあっても行間まで教えることは困難であるように。
野菜が私たちに味わいで伝えたように、畑はそのことを言語化していた。
広大な畑は美しく、畑を囲む森林からも生命力を感じる。そして山から笑い声が。幻聴?
柵で囲ってあるがイノシシや鹿が増えているそうだ。
「お互い生きるため本気です。できるだけ未然に防ぐけど、やむを得ない場合もある」駆除のため狩猟免許を取った。
山の上の方の日当たりの良い畑と、森林に囲まれた別の畑では、同時に植えたキャベツの生育状態が全く異なる。後者は随分小ぶりで生育が遅れているようだが、いざというときまでキャベツの好きにさせておく方針のようだ。その時の対処法はいくつか益田さんの頭の中にある。
畑とキャベツの力を最後まで信じて待つ。
大和トウキも素晴らしい。咲き始めた花の香りがそこかしこに漂っている。
県のプロジェクトに賛同して毎年育てているが、今のところ相変わらず中国産との価格競争に勝てず製薬企業も購入してくれないため収支が合わず、存続が難しいとのこと。
当店も、漢方用に根を育てるため葉を食用にするプロジェクトの当初に関わったが、独特な香りが難しいと感じている。
ただ、今までの中で増田農園の大和トウキが最も食味が良い。グーラッシュに添えると完成度が上がる。やっとイタリア料理に活かせて大変嬉しい。
落花生も元気いっぱいだ。
「まだ若いけど食べられるし、逆にこの(若い)状態で売ってないから一本持って帰ってみる?」と抜いてみたら思わず笑うくらいたわわに実がなっていた。
なんと大きい枝!と騒いでいたら「あれ?半分やな。これもう半分ね。1本分持って帰ってよ」
大きい!何?このサイズ!育ちすぎ!面白すぎ!
帰りに凍らせた柿を、すぐに食べるようにといただいた。まるで干し柿のような熟柿。糖度が高いため半凍りで、あの美味しさは一度食べたら忘れられない。
「また来てくださいね!」と見送ってくださった増田さんの笑顔と相まって、美味しいと言うために引き返しそうになった。
翌朝、枝から外し選別した落花生は、増田さんがおっしゃっていた通りまだ若く、爽やかな青さと僅かな渋みが印象的だった。その後、完熟し店頭に並んだ益田印の落花生を購入したことは言うまでもない。
奈良って、日本って本当に素晴らしいと改めて思う旅となりました。
辰巳さん、益田さん、お忙しい中お時間をいただきパワーをいただき、本当にありがとうございました。