◆今西本店純正奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て ~Cyagayu~◆

「大和の朝は茶粥ではじまる」と言われるように奈良の伝統的な朝食、茶粥。
しかし実際に茶粥で育ったという方には、ほとんどお目にかかれない。
ご近所の80代の方々も経験がないという。
我が家の朝食に茶粥が登場したのも2020年からだ。

昨年誕生した、リゾットと茶粥を融合させた当店のシグニチャーメニューの一つ、”Chagayu”シリーズ。老若男女、海外からのお客様まで大変好評いただいている。
コースで提供するようになってから、幼少のころ茶粥を食べたという方にお目にかかれるようになり体験談を伺えることは大変嬉しいことだ。

中でも1200年以上続く東大寺修二会の練行衆の献立にのぼる茶粥と、ルーツが平城京にまでさかのぼる奈良漬けは、Chagayuの代表メニューといえる。

『今西本店純正奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て ~Cyagayu~』についてシェフに話を聞いた。

今西本店純正奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て~Chagayu~

今西本店純正奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て~Chagayu~

<シェフ山嵜のCyagayuへの想い>
茶粥とリゾットを組み合わせたきっかけは、大和丸なすです。

毎年それぞれの食材の旬が巡ってくると、新たなメニューの可能性を探ります。
中でも10年以上お付き合いのある大和丸なすは大好きな奈良の農産物の一つです。2023年は3品、デザートまで誕生しました。そして大和丸なすは『旬を楽しむスタジオーネ コース』で奈良の食材にスポットを当てた季節限定のコース料理誕生のきっかけにもなりました。

特に『<炭火焼>大和丸なすのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て』は、日本ならではの焼きナス、奈良ならではの大和茶の茶粥、イタリア料理のリゾットやミネストローネが渾然一体となった独創的なイタリア料理で、自分でも初めての発見に我ながら感激しました。

初めて参加した全国イタリア料理コンクール「米料理」の課題に王道のリゾットで出品し、イタリア人プロの料理人たちの審査の元優勝したことで得た自信と、老舗のお茶屋『田村青芳園茶舗』の店主自ら丁寧に焙じた香り高い大和茶と教えていただいた茶粥があったからこそ辿り着きました。

なぜか腑に落ちる味わいの不思議と、今までにない体験に嬉しくなり、奈良の茶粥について改めてさまざまな文献から学びました。

原型は東大寺修二会の練行衆のお夜食“げちゃ、ごぼう”にありました。
炭火で10時間煮出してまろやかにした番茶に米を入れ、炊けたら半量を味噌漉しのようなものですくっておひつに入れ蒸らします。これが“げちゃ”(あげちゃ)。残りはそのまま重湯になるまで炊いていきます。“ごぼう”(ごぼごぼ炊く音)です。

行を終えた練行衆が参籠宿所に戻ってくる時刻は深夜で日によって異なります。童子(練行衆の世話役)がお昼ごろから準備に取りかかり、練行衆の下堂時刻に合わせて炊き上げます。練行衆がそれぞれの体調に合わせてげちゃとごぼうの割合を調節できるように、また厳しい行に加え深夜就寝前であることから消化吸収への心配りが素晴らしい献立です。野菜の煮物やお漬物と共に食されます。

日本では805年に最澄と空海が茶の木の種を持ち帰り、奈良では806年に空海の高弟が宇陀市に種を蒔いたと伝承されています。
そして民間に広まるのは江戸時代、神職から奈良市小西町の井戸屋弥十郎に伝わり、旅人が1657年「奈良茶飯」として江戸で流行させ外食文化の始まりとなりました。

近代になり奈良の山間部の農家では「茶粥に始まり茶粥に終わる」というほど郷土食として定着します。毎日の茶粥に里芋やかき餅、さつまいも、奈良漬けなどお漬物を添え、特別な日にはお餅、と飽きないよう家族を喜ばせていました。マンマのパスタと同じです。このことから茶粥リゾットの組み合わせが広がりました。

やはり最も驚き感激したことは、当店の所在地である小西町が民間における茶粥発祥の地であり、外食文化のはじまりであることです。ボルゴ・コニシ(小西町)を名乗るリストランテとして天命を感じました。

現在、山間部には茶粥文化が残っていますがごくわずかです。
奈良の食文化を残すためにイタリア料理でできることは何かと考えたとき、茶粥という言葉を残すだけでもつなぐことができると考えました。
もはや古典に感じるものも工夫と洗練により伝承すれば、いずれ時が巡って歴史を遡る人が現れ復活し革新されて再び伝承されていく、そして伝統になると思います。

提供を始めてみると奈良出身の奥様が「そういえば幼少期に食べていた」と思い出されて、ご主人様が「初耳だ!」とお互いの、まだ知らないことがあったのかと思い出話に花が咲く、素敵な場面に遭遇しました。
また、社会人になられたばかりの若い女性が茶粥で育ち夕飯でも食べたいくらい大好きで、つい数年前まで日本全国の朝食は茶粥だと思っていた、と大変嬉しく頼もしいお話をしてくださいました。

こうしてリストランテ ボルゴ・コニシでは、大和丸なすをはじめ、大和伝統野菜の味間いも、宇陀金ごぼう、かき餅など奈良の季節を盛り込んだ定番の前菜となりました。
中でも茶粥の原型となった ”げちゃごぼう” は重要です。

毎年3月1日から14日まで東大寺二月堂で行われる修二会は、天平勝宝4年(752)に始まり、一度も途切れることなく令和6年(2024)の今年1273回目を迎えます。
この時期には料理人として世界平和への祈りを込めて、江戸時代末期創業の今西本店純正奈良漬けを添えてご用意いたします。

奈良で長く過ごしてきたからこそ生まれたリゾットと茶粥の共演『今西本店純正奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て~Chagayu~』を是非ご賞味いただき、奈良の思い出に加えていただけますと幸いです。

今西本店純正奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て~Chagayu~

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<参考文献>
『聞き書 奈良の食事(日本の食生活全集㉙)』農山漁村文化協会 出版
『茶粥・茶飯・奈良茶碗 全国に伝播した「奈良茶」の秘密』鹿谷 勲 著 淡交社

<参考サイト>
『東大寺ホームページ』修二会
『奈良県ホームページ』令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」
『奈良の食文化研究会』
出会い大和の味 平成17年3月(70号)
           出会い大和の味 平成22年10月(133号)